読書ノート 2009-2



ミーナの行進

真夏のオリオン

告白

ポスト戦後社会

世界を旅する地図

Gボーイズ冬戦争(池袋ウェストゲートパークZ)

ジウT・U・V

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

『海の都の物語』4〜6

士魂商才(五代友厚)

中国を知る

借金取りの王子

花降る午後


『ミーナの行進』(中公文庫 小川洋子)

 わたしより年下で、しかも女性の書いたものを読みたいと思いました。そうして選んだのがこの本でした。 以前に「博士の愛した数式」を読んで感動し、映画まで見てしまったことを覚えています。 その人の作品に出会ってとてもよかったと思っています。 ミーナが小学6年生、わたし(朋子)は中学になったばかりです。背伸びしながらも、まだ少女らしい好奇心で一杯の年ごろです。 男のわたしには計り知れないところがあります。病弱のミーナが乗って小学校に通ったというコビトカバのポチ子なしには あり得なかった日常的な話かもしれませんね。その仕掛けがすごいですね。

阪急電車の窓に芦屋の町並みが見えてきた時、なぜか心が動いたのです。風景がどう変わろうと、 思い出まで傷つくわけではないという自信のようなものが、私の中に育っていたのかもしれません。

 思い出まで傷つけてはならない‥身にしみる言葉です。

「川端康成と、お知り合いなの?」誰にともなく、私は尋ねた。「いいえ」両手を解き、ローザおばあさん が答えた。 「あまりにも皆がショックを受けているように見えたから‥‥」「知り合いではない。一度だって会ったことない。でもカワバタさん、 作家でしょ? 本を書く人。家にもカワバタさんの本あるよ。知り合いじゃないけど、つながっているね。カワバタさんが本を書いて それここにある。その本、皆が読む。だから、悲しい」

 何気なく、知り合いでなくても繋がっている、という言葉が嬉しいですね。

1083年9月4日、元全日本バレーボールチームのセッター、ミュンヘンオリンピック金メダリスト猫田勝敏氏、 胃ガンのため死去。享年三十九。このニュースを耳にした時、私は思わず手を止めた。 すでに芦屋で過ごした日々から十年以上の月日が流れていたが、あの夏に起こった出来事一つ一つが、 息苦しくなるほどの勢いでよみがえってくるのを感じた。テレビの前に敷かれた絨毯の感触も、アラブ・ゲリラが被っていた帽子の形も、 バレーボールに染みついたポチ子のフンのにおいも、すべてがいっぺんに押し寄せてきた。 と同時に、それらの大事な思い出が、猫田の死とともに二度と手に届かない遠いところへ去ってしまったような、寂しさに襲われた。

 そのとき、嵐のように激しい感情に見舞われたのですね。それは、誰にだって起こりうる自然の感情であって、 たとえ過去の感情が噴き出したものであるとしても、それを押さえつける必要は全くないと思います。


『真夏のオリオン』(小学館文庫 福井晴敏)

毎年、暑い夏になると、平和について考えることにしています。せめてこのときだけでも、 戦争と平和に関する本を読むことに決めているのです。 この作品は、映画を元に書き下ろしたものということで、その分、とても読みやすくなっています。 『亡国のイージス』『終戦のローレライ』に次いで読むことになりました。

われわれ、日本人にとって「戦後」はあるけれど、アメリカ人にとっては「戦後」はないんだというところが衝撃的でした。 21世紀を超えた今まで64年間に、20を超える戦争と武力衝突を繰り返し、今なお多くの若者が戦場に立っているという事実 も見逃してはならないことですね。

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時折オリオンを見上げながら、考えることがあります。 果たして今、自分は祖父たちのように全力を尽くそうとしているのだろうか。 したり顔で人生を損と得とで割り切り、その代償として押し寄せる不安に心奪われ、「正義」や、「人としての誇り」や、 そして希望から、目を逸らそうとばかりいるのではないだろうか‥‥‥。



『告白』(双葉社 湊かなえ)

初めに、このドラマの進行をみて驚きました。事件そのものではなくて、このドラマの進行に関してなんですが、 こんな始め方があるものなんだと感心しました。まだ、読んでいない方のために、詳細はお教えできません。

「辞めるというのはあれが原因か?」そうですね、そういうことを含めて、最後にみんなに聞いてもらいたい 話があります。

この聞いてもらいたい話というのは、たいてい、聞かなかった方が身のためというレベルの怖い話になるはずですが、 そのときは誰も気がつかないものなんですね。

確かに、わたしが辞職を決意したのは、愛美の死が原因です。しかし、もしも愛美の死が本当に事故であれば、 悲しみを紛らわすためにも、教員を続けていたと思います。ではなぜ辞職するのか?愛美は事故で死んだのではなく、 このクラスの生徒に殺されたからです。

私が真相を知ったのもかかわらず、AもBも普通に学校に来ています。‥‥私は教師でもあります。 警察に真相を話し、然るべき処罰を受けさせるのは大人としての義務ですが、教師には子供たちを守る義務があります。 警察が事故と判断したのなら、今更それを蒸し返すつもりはありません。

なかなか、聖職者っぽい発言だと思いませんか?

「憎しみを憎しみで返してはいけない。それで心が晴れることなど、絶対にないはずだ」と言った桜宮の行為を 受け入れることが出来なかった。教師であるよりは、親であることを選んだところで、復讐は半端にならずに済んだようです。 その分、事件は新たな事件を生んだことになりますが、これもまた秘密ですね。



『ポスト戦後社会』(岩波新書 吉見俊哉)

社会運動のポスト戦後:50年代には大衆的な政治運動の担い手であったこともある労働運動や左翼政党は、 すでに高度成長のシステムに組み込まれ、政治的な変革の主体ではあり得なくなっていた。

若者の煮立ち:60年代なら70年代にかけての日本の急進的な政治運動、とりわけ学生運動の孤立は、こうした世界と日本との 大きなギャップを背景としていた。若者たちは、世界の各地で「革命」への機が熟していると感じていた。ベトナム戦争における アメリカ帝国主義への根強い抵抗と中国の文化大革命は、同時代の日本の若者の意識を奮い立たせた。だが、日本国内の状況はまったく 違っていた。大多数の人々の関心の焦点は、経済の豊かさであり、新しい大衆消費財やテレビが提示するバラエティーとホームドラマの 世界であった。平均的な日本人にとって、アジアの紛争や革命は、ますます縁遠い世界の出来事としか感じられなかった。60年代以降に 日本に革命など起こるはずもない。そうした現実は、ベトナム戦争や文化大革命をより身近に感じていた大学生たちを煮立たせるのに 十分だった。

集団的自己閉塞へ:60年代末の学生運動は個々の闘争の現場で現実的な展望が見いだせないが故に、 ますます「革命」の観念にしがみついていくという逆説的な回路をエスカレートさせていったのである。そのような意味で、若者たちは 十分に「空想的」であった。

1960年代をもって、著者は、「左翼の終わり」をみています。 さらに、72年の連合赤軍あさま山荘事件が、60年代からの新左翼運動の決勝的な敗北を象徴する出来事になったというわけです。

70年の万博会場に押し寄せた大群衆の異様な熱気は、日本の大衆がすでに変容してしまったこと、50年代の反米基地闘争も、 60年安保闘争も、すでにどうしようもなく過去の出来事であり、人々の意識や欲望、そして思想の大衆性を、もはや根本的 に新しいパラダイムで考えなければならない時代が到来していることを露呈させた。

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1970年代:「一億総中流化」(貧富の格差は減少した)(保守対革新という階級政治は後景化した)

1980年代末以降:「中流」の崩壊(格差社会化がすすむ。公平性よりも効率性を重視する。不平等の拡大を是認する)
1982年 中曽根政権の新自由主義(小さな政府の実現、行政改革と公共部門の民営化)
1987年 国鉄の民営化
1989年 国労の解体、連合の発足。ベルリンの壁崩壊、冷戦の終結を宣言。

1980年代より非正規雇用の拡大:パート、派遣労働者、契約社員、嘱託などの全雇用人口に占める非正規雇用の割合が90年に20%を、99年に25%を、 2002年には30%をも超えて、08年には35%に迫る勢いである。それは、20代の若者層、60代以上の高齢層、それに女性に著しく偏って いる。

1985年プラザ合意後:企業の海外進出と産業の空洞化、急増する流入外国人
 (2000年代初頭に日本の製造業の海外生産比率は15%を突破する)
1995年 震災・オウム・バブル崩壊

1990年代:日本社会は老いつつある。社会全体が未来への展望と活力を失い、噴出する不安のなかで迷走している。新自由主義的な潮流の中で 福祉国家の諸制度が次々に崩壊し、雇用が流動化して格差が広がっている。階層的な格差拡大のなかで、一生結婚しない人、子どもを 持たない人の激増も見込まれている。1985年生まれの人は、一生結婚しない女性が23%程度、男性が約30%、子どもを持たない女性が 37%程度、男性では45%になると予測されている。

2001年 小泉政権の新自由主義(小さな政府の実現、行政改革と公共部門の民営化)郵政の民営化
2005年 日米戦略協議。日米同盟の変質。



『世界を旅する地図』(JTBパブリッシング 岩見隆夫)

2008年版。値段は1,680円也。観るだけではもったいないので、ここから多くの「QUIZ」を作ってみました。

「quiz」から「世界地図クイズ20問」をご覧ください。



『Gボーイズ冬戦争(池袋ウェストゲートパークZ)』(文春文庫 石田衣良)

おれたちはいつだって、やつらのいいカモなのだ。
だから、さっきのバカなガキを責めないでやってほしい。 だってやつはおれたち男性全体の似姿なのだから。まあ、このあきれた世界には、ほんんもののビーナスなんているはずがない。それは おれの孤高の二十数年が証明している。
でも、おれたちは心のどこかで女神がいないかと、いつも期待しているのだ。
男というのは徹底 的に愚かな生きものである。

「でも、エリーさんにはなにか事情があるらしくて。悪意があって、その絵を売っているようには思えないんです」
公園のケヤキが風に揺れる。木の葉がたがいに囁きあっていた。
「あんたって善人だな。それで似たような絵を三枚も買ったんだ」
お人好しとはいえなかった。キヨヒコはうなずいていった。

忘れてしまった過去のある日、あんたが善人のつもりでしたちょっとしたおせっかいが、あんたの命を縮めるこ とになるかもしれない。どこかで猛毒を持つ人間に出会ってしまったのだ。この世界にはふれてはならない人間がいて、そうしたやつらは なんの理由もなく、あんたを恨み、憎み、滅ぼそうとする。問題なのはいつだってそうしたやつが、その他大勢とまったく見分けがつかな いってこと。

ちょうど昼どきだった。おれはベンチを立ち上がり、メトロポリタンプラザにむかった。つばめグリルで ハンバーグでもくって帰ろう。ついでにHMVに寄るのもいいかもしれない。

HMVの意味がわかるようになっただけ、進歩かもしれない。天王寺にも、八尾にもその店はあり、近ごろお世話になったからだ。



『ジウT・U・V』(中公文庫 誉田哲也)

ハイスピード、未曾有のスケールで描く新・警察小説。2つの誘拐事件とジウの影。 カンヌこと、171センチの門倉美咲。女性初のSAT隊員に抜擢された伊崎基子25歳。物語はまだ始まったばかりだ。





『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日新聞社 加藤陽子)

新聞の書評欄でふと出会って、読んでみたいなと思った。旅先の、新居浜市の「イオン・モール」の本屋さんで見つけてしまったので、 買わざるを得なかったということです。





『海の都の物語4〜6(ヴェネツィア共和国の1千年)』(新潮文庫 塩野七生)



08 宿敵トルコ
09 聖地巡礼パック旅行
10 大航海時代の挑戦
11 二大帝国の谷間で
12 地中海最後の砦
13 ヴィヴァルディの世紀
14 ヴェネツィアの死




『士魂商才(五代友厚)』(講談社文庫 佐江衆一)

安政2年(1855)2月23日、江戸に向けて回航される昌平丸が、船印に白地に鮮やかな朱の日章旗をかかげて出港していくのを 目にしたときも、感動の涙がにじんだ。外国船の来港が多くなって、わが国の外洋船に日本の船印が必要となり、斉彬が幕府に 願い出た日の丸の船印が日本船章としてはじめて採用されたのである。

12月23日早朝、江戸城二の丸が全焼した。幕府は薩摩藩邸にたむろする浪士らのしわざとして、25日未明、庄内藩兵が三田の 薩摩藩邸を包囲、砲撃して焼打ちした。邸内の藩士・浪士らは十数倍の敵を相手に闘い49人が討死し、伊牟田尚平ら30人ほどが 品川沖に停泊していた藩の蒸気船翔鳳丸でかろうじて脱出した。





『中国を知る』(遊川和郎 日経文庫)

中国の権力構造は基本的に共産党内の序列によります。党と国家で組織が二重ですが、1990年代以降、党内序列を国家組織に リンクさせるようになりました。2007年2月現在、党内序列ナンバー1の胡錦涛(1942〜)総書記が、軍事委員会主席と国家主席を兼ね、 ナンバー2の呉邦国(1941〜)が全人代常務委員長、ナンバー3の温家宝(1942〜)が国務院総理、ナンバー4の賣慶林(1940〜)が 政治協商会議(政協)主席と続きます。

中国企業の生産力拡大、市場競争力の向上には目覚ましいものがあります。粗鋼は世界の3割を生産し、カラーテレビ、エアコン、 冷蔵庫など圧倒的な生産能力を持つ家電をはじめ、多くの産業で中国の生産規模は世界の上位を占めています。自動車も2006年には ドイツを抜いて米、日に次ぐ世界第3位に躍り出ました。

また医療や靴などの労働集約型産業の競争力は圧倒的で、2005年に繊維製品のクォータ(告別割当)が廃止されると世界市場を中国製が席卷し、 セーフガードやアンチダンピング課税など貿易保護措置の発動が相次いでいます。

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一昔、よく紹介された洪水のような自転車の群れは、今や、都市では見られなくなった風景の一つかと思われます。自動車が溢れています。 自転車の代わりに、バイクが歩道よりを走っています。何にせよ、怖いと思ったのは人ではなくて車が優先の道路です。たとえ、信号が青でも きょろきょろしながら安全に横断歩道を渡らなければならないようです。

一人っ子政策が進み、子どもたちは小皇帝と呼ばれて、大学進学まで面倒をみてくれるのが当たり前ですが、今や大学卒業生の数が 500万人に迫る勢いで、ものすごい数になります。大学を出たからといって就職が保障されるわけではないようです。 わたしたちがお世話になった現地ガイドのリュウさんは、シンチャンウイグル自治区出身の漢民族とのことでしたが、 大学はチーリン(吉林)省で、結局シャンハイ(上海)で就職にありつけたわけですから、辺境から大都会に出てきてようやく 仕事にありつけたのでした。

中国では、美男美女であることも就職には欠かせないようです。空港のお店で働いている店員さんをみると、みんな美人揃いでした。 あはは‥見ることはちゃんと見ていますとも。



『借金取りの王子』(垣根涼介 新潮文庫)

『君たちに明日はない』の第二弾なんだけれど、『借金取りの王子』もタイトルとしてはいかがなものでしょう。

『ワイルド・ソウル』を先に読んでしまって結構衝撃を受けたから、こんなのも書く人なんだな‥と思ってしまいました。



『花降る午後』(宮本輝 講談社文庫)

毎度のことですが、彼の作品を読むとほっとします。スルスルと読むことができます。 おまけに、女性を主人公にすると本当に上手いです。 そして、その彼女を取り巻く男性陣の中で、恋人よりも、とりわけ年配の人たちがいいなあと思いますね。



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