読書ノート 2003-1


  1. 終戦のローレライ

  2. タマちゃんのおくりもの

  3. 半落ち

  4. マークスの山

  5. 波のうえの魔術師

  6. グレイヴディッガー

  7. 李歐

  8. 素顔のイラク

  9. リヴィエラを撃て

  10. カカシの夏休み

『終戦のローレライ』(福井晴敏 講談社)

多少の寂しさは我慢しなくてはならない。
わたしはローレライ。
魔女は長生きするものと、昔から相場が決まっている。

終戦の意味を問う、圧倒される本でした。
わたしはローレライの息子と同じ世代。
多くのことが時代と共にすすむのでしょうが、世代を超える生きかたというのがあるはずですね。

名も知らぬ 遠き島より
流れ寄る 椰子の実ひとつ
故郷の岸を離れて
汝れはそも波に幾月

旧の樹は 生いや茂れる
枝はなお 影をやなせる
我もまた渚を枕
独り身の浮き寝の旅ぞ

実をとりて 胸にあつれば
新たなり 流離の憂い
海の日の沈むを見れば
たぎり落つ 異郷の涙

思いやる八重の潮々
いずれの日にか 国に帰らん‥

「椰子の実」の歌‥3番までは覚えていませんでした。



『タマちゃんのおくりもの』(まるはま絵 ぷれこ文 世界文化社)

みんな かってなこと
いってるみたいだけれど
なんかちがうよ

だいたいボクって
まいごなの?

お母さんもいない
きょうだいもいない
友だちもいない
いつもひとりぼっちで
たびをしているけれど

これはこれで
楽しいよ

わが友、ぷれこさんの童話。まるはまさんの絵もいつになく真面目である。(笑)
わたしがいただいたものは、少年の好奇心の素晴らしさ。
わが同僚にも読んでいただいたが、買ってもらった方がよかったかな?




『半落ち』(横山秀夫 講談社)

「完落ち」ではなくて「半落ち」。
事件は解決しているが、事件後の空白の2日間に関係者は注目した。
なぜ、犯行後にすぐ自首しなかったのか?

最後が劇的でした。よかったですね。



『マークスの山』上・下(高村薫 講談社文庫)

直木賞受賞作。
姿なき殺人犯を警視庁捜査第一課七係の合田雄一郎刑事が追う。
南アルプスの発掘死体事件と東京の連続殺人事件がどう絡むのか?

とても、丁寧な記述でした。おかげで、寝不足になりました。
このあと、高村薫氏の作品に当たってみたいと思います。




『波のうえの魔術師』(石田衣良 文藝春秋)

株の売買については難しいことがありましたが、罪なき人々を破綻に追い込んだ銀行に対する闘いは痛快でした。

調べてみたら、石田氏は経済学部卒業でした。
なるほど、ですね。




『グレイヴディッガー』(高野和明 講談社)

ここでも、骨髄移植が‥。
悪の中の悪、と言われる八神俊彦が贖罪のために、ドナーになろうとしている。
キリスト教華やかなりし頃、イギリスで魔女狩りに一定のセーヴがかかったのは、異端審問官に反撃したグレイヴディッガーの存在が大きかった。
八神を追う謎の集団とそれを追う墓堀人、無事にドナーとなりうるか‥ドラマは急展開を見せる。

2月の読書はしばしば寝不足を誘うものだ。



『李歐』(高村薫 講談社)

水を制する者は土地を制する。豊かな耕地と緑は千年の財産やと、后光寿は言うています。これからの数十年、電子技術はどれだけ進歩するやわかりませんが、人間は機械を食うて生きていくことは出来ませんやろ。二十一世紀の人類を支えるのは耕地やて、后光寿は言います。なるほど、この北東の大地に立ちますと、今日明日やない、百年千年先の大地のために種を蒔くというような発想も、あながち生まれて来ないとも言えません。ほんにこれが大陸やと、ぼく自身あらためて思うたもんでした。‥‥そうは言うてももちろん、この土地への投資で本体の経営が傾くようなことは、このぼくがさせません。そのために、この笹倉がおるんやと思うています。

そうそう、后光寿は言うてました。日本にいた短い間に心に残ったものの一つは、守山工場の桜やったと。ほんの少しの差で、彼は結局、あの桜が咲いている姿は見てませんのやが。はて、桜のほかに彼の心に残ったというものは、何やったんでしょうか‥‥?

『マークスの山』もよかったですが、この作品も凄かったです。
なによりも、桜の季節に間に合ってよかったと思います。




『素顔のイラク』(早坂隆 連合出版)

イスラムと聞くとどうしてもテロのイメージばかりが先行してしまうが、僕はそんな固定化されたイメージ以外の部分を実際の眼で見、はだで感じたかった。

本当のイラクの人々の姿を自分の網膜に焼き付けたい。そのためにはるばる来たのだ。イラクの人々と共に話し、共に食べ、共に笑いたい。そんなに難しいことではない筈なのだ。

写真と文からなる『素顔のイラク』は、2002年の8月の記録だ。副題は「フセイン政権下に生きる人々」である。
明るい顔の人ばかりである。「白血病の子どもたち」を除けば‥だ。
白血病は、湾岸戦争で多国籍軍が使った劣化ウラン弾によるものだ。
イラクの生物化学兵器や核兵器の開発はいけないが、アメリカのモノはいいのだろうか?
そんなはずはないだろう。
人間の顔の見えない戦争は、アメリカの一方的な「大本営発表」によるもので
イラクの人々にとっては、戦争は多くの怒りと悲しみをともなうものでしかない。




『リヴィエラを撃て』上・下(高村薫 新潮文庫)

>「リヴィエラを撃て」読み終わりそうですか?

あとわずかで終わりというところまで来ました。
まず、今晩中には終わると思います。
この次も高村薫氏の作品を用意しています。

>でもアイルランドの事が少し分かって、印象に残る一冊です。

何だか物悲しいお話でした‥。
確かに、つい、地図帳を広げてみましたね。
その昔、大阪国際女子マラソンで優勝したキャリー・メイというかわいい女の子のことを思い出しました。

メールをそのまま転記させていただきましたが、読み終えたあと、再び上巻に戻りました。
そのまま終わるのが悲しすぎたからです。
北アイルランドのIRAのことが気になったわけで‥1998年に和平合意に達したかにみえましたが、
再度武器を放棄しないまま、いまに至るまで争いがくすぶっている、との報告を読みました。




『カカシの夏休み』(重松清 文春文庫)

五年生にもなれば、目に見えたり耳に聞こえたりするおとなの世界のことは、たいがいわかる。
けれど、目に見えないひとの心や、おとなが口に出さずにいることは、まだわからない。六年生でも無理だ。中学生でも、高校生でも、もしかしたら彼ら自身がおとなになるまでわからないままかもしれない。僕たちが、そうだったように。

「アダ、幸せって、なんだと思う?」
安達は少し驚いた顔になり、あきれた顔にもなったが、ホテルの外に出てから答えてくれた。
「ポン酢しょうゆのある暮らし」
十年以上前に流行ったコマーシャルに、そんなのがあった。
正解−にしておいた。

わたしも案外、カカシに近い‥というと、不遜に当たるかな。



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