読書ノート 2002-3


  1. 森博嗣のミステリィ工作室

  2. アトランティスのこころ

  3. 黒猫の三角

  4. なぜ私はこの仕事を選んだのか

  5. 人形式モナリザ

  6. 本当の学力をつける本

  7. 恋恋蓮歩の演習

  8. 夢・出逢い・魔性

  9. パレスティナ

  10. イラクとアメリカ

  11. クロスファイア

『森博嗣のミステリィ工作室』(講談社文庫)

『詩的私的ジャック』より
 どうやら、うち(N大)の建築学科の女子学生(あるいは卒業生)の何人かが、「西之園萌絵のモデルは私だ」と勝手に思い込んでいるらしい。そういう噂が耳に入る。恐ろしいことである。

 そういう人に出会ってみたいと思います。まあ、無きにしも非ず‥ですが、とりあえず邪推はやめておきましょう。

『封印再度』
 本作を書き上げたときには、すでに後半5作を書く決心を固めていた。それは、本作のエンディング部分を読んでいただければ「なるほど」と頷かれるだろう。頷かない人は、何事にも動じない人か、鞭打ち症か。あるいは、そのどちらでもない人だろう。

 続きを期待するほかないでしょう? このまま終わるとすれば‥消化不良ですよね。

『有限と微小のパン』
 犀川と西之園以外に、一番登場回数の多いキャラクタは、おそらく国枝桃子ではないだろうか。読者の人気も高い。どこにも魅力的には書いていないのに、勝手に美形だと思い込んでいるようだ。繰り返し「女には見えない」と書いているにもかかわらず、である。

 美形だと気にしたことはないですが、何となく、らしき女性を探してしまいますね。大抵の場合、彼女についても一言書かざるを得ないでしょう。



『アトランティスのこころ』(スティーヴン・キング 新潮文庫)

サリー・ジョンは心外な顔を見せた。「だれが汚い言葉をいったんだよ? おれはいってないぞ」
「いったもん」
「いってないって」
「いった」
「いってない。誓うよ。ほんとだ」
「いいえ、いいました。オタンコナスって」
「どこが汚い言葉だよ。オタンコナスっていうのは、ナスの一種だぞ」 
サリー・ジョンはそういって援軍を求める視線をボビーに送ったが、ボビーはボビーでアッシャー・アベニューに目をむけていた。

訳者の苦労が偲ばれる場面の1つです。ようやく、上巻を読み終わったところです。

「わたしはいまフィラデルフィアに住んでいる。プロのカメラマンである美しい妻がいて、もう成人した三人のすばらしい子どもにも恵まれた。腰の具合は悪いが気立ては最高の年老いた愛犬がいて、住んでいる古い家はいつもどこかしらを修繕しないとならない状態だ。だから、いつも妻がこぼしているー靴職人の子どもはいつも裸足で走り回り、大工の家はいつだって雨漏りがしているというから、これは仕方がないのね、と」
「じゃ、いまの仕事はそれなの? 大工さん?」
ボビーはうなずいた。「レッドモンド・ヒルズというところに住んでいる。たまに新聞を買おうと思い立ったとき手にとるのは、フィラデルフィア・インクワイラーだな」
「大工さんになったのね」 キャロルは遠い声でいった。「てっきり、あなたは大きくなったら、作家かなにかになるとばかり思ってた」

ひとまず読み終わったことと、映画との違いを書いておいただけである。



『黒猫の三角』(森博嗣 講談社ノベルズ)

「面白い話、してほしい?」 紅子は両手で頬杖をして、真っ直ぐに練無を見ていた。
「うん、してほしい」
「宇宙人がね、ある惑星に集合して、スポーツ大会をしたの」 真面目な顔で紅子は話す。「ドッジボールで決勝に勝ち残ったのは、手長(てなが)星人と顔デカ星人のチームでした。手長星人は、とにかくリストがあるから、鋭いボールを投げられるわけ。それにひきかえ、顔デカ星人は、全身が顔だから、手足は短くて、とても不利です。さて、どちらが勝ったでしょうか?」
「それ、問題ですか?」
「そうよ」
「顔デカ星人」 練無は電子レンジのボタンを押してから答える。
「理由は?」

是非、考えてみてくださいませ。子どもたちにとっては簡単かもしれません。

保呂草潤平氏の登場が‥なんとも笑劇的でした。
笑ったわけではないですが、このシリーズの途中から読み始めて初めに戻った者にしか味わえないものですね。




『なぜ私はこの仕事を選んだのか』(岩波書店編集部 岩波ジュニア新書)

三輪主彦「デモシカ先生からシカ先生へ」
向後元彦「マングローブを仕事にする」
賀曾利隆「世界を駆けるゾ!」
北原菜里子「少女マンガぐらしへ」
伊藤美奈子「学校現場からの離脱、回帰、そして新たな展開」
小川渉「パン工房 綾より心をこめて」

世界にはばたく人と日本で踏ん張る人がいる。岩波ジュニア新書でした。



『人形式モナリザ』(森博嗣 講談社ノベルズ)

書斎にあったバーボンから毒物が発見されたことは、朝刊にあったとおりだ。
「そうそう、それもラッキーだった。玉蜀黍が嫌いだから、なんとなく遠慮したのね」 紅子は微笑んだ。「玉蜀黍って、美味しい、美味しいという以前に、あまりにも食べにくいと思わない?」
「いいえ」 紫子が首を振る。「もっとずっと食べにくいもの、いっぱいあるやないですか」
「ええ、みたらし団子とかね」 紅子は真剣な表情で頷く。

ただ、玉蜀黍という漢字が気になったのだ。何となく、形をイメージしているような字だね。
紫子さんのことを書こうとしたのだが、長くなりそうなのでやめた。




『本当の学力をつける本』(陰山英男 文芸春秋)

「百マス計算」という言葉を、初めて知りました。



『恋恋蓮歩の演習』(森博嗣 講談社ノベルズ)

「私なんか、もう何もないのよ。全部取られてしまったのよ。だけどね、どうしても取られないもの、誰にも渡せないものがあります。それが、人の価値を決めるものです。それだけは、最後まで、死ぬまで、誰のものでもありません。立ち上がりなさい。人の誇りを持ちなさい!」

紅子の独断場ですね。冒頭に引用したい文のひとつです。

「そやそや、午前のAMは、なんでAMなん?」
「アンチ・メリディアムだよ」練無は澄まし顔で答える。「アンチはビフォアの意味で、メリディアムは子午線。PMのPは、ポストでアフタの意味だよ。ラテン語じゃないかな」
「れんちゃんって、頭ええんよね」
「覚えたから覚えているだけじゃん」練無は言った。「知らないことは知らないもんね」

当を得た答えですね。 



『夢・出逢い・魔性』(森博嗣 講談社ノベルズ)

「あの‥‥、火事で‥‥、えっと、救急車で運ばれて、意識不明で」
「誰が?」
「亜裕美ちゃんがですよ」
「えぇ! なんで?」
「ですから、火事」「佐久間さん、病院からかけてきたんです」
「今日のこと? マジで駄目だって? え? おいおい」
「意識不明の重体って聞きましたけど。無理だって、佐久間さんは言ってました」
「火事? 何、火事って?」
「さあ、火で燃えるやつじゃないですか」
「なんで、今どき火事なわけ?」
「さあ‥‥」
「重体?」
「ええ」
「そんなに簡単に言うなよ!」「どうすんだよ? え? リハーサルんときの絵、もう予告で流れちゃうんだぜ。えっと、今何時?」
「六時二十分です」
「ああ、駄目だ。もう遅い! ちくしょう!」「たくもう! なんで火事なんかするんだよ。いい加減にしてくれっての」
「困りましたね」
「困ったよ、困ったよ。重体くらいで、普通、休むか? 俺だって、ここんとこ重体なんだから」
「意識不明だそうです」
「いいんだよ、意識なんかどうだって!」

TV局にありそうな、ディレクタとアシスタントの破滅的な会話です。
これで、Vシリーズ9作すべてを読み終えました。
続編を待つしかないわけでしょうが、「関西」編がないのが‥唯一の不満ですね。




『パレスティナ』(広河隆一 岩波文庫)

本来はフォトジャーナリストという広河隆一氏の報告。
『チェルノブイリ報告』(岩波新書)で、以前にもお目にかかりました。 

「インティファーダ(民衆蜂起)」から「暫定自治協定」と続いたあとのできごとをまとめています。
わが国の特攻隊のイメージと重なる「自爆テロ」、そして報復という連鎖がなかなか解けません。

この本を読んで、初めて気がついたことは
ガザおよびヨルダン川西岸地区ではパレステナ人自治区とイスラエル入植地がモザイクのように入り乱れていることです。




『イラクとアメリカ』(酒井啓子 岩波文庫)

アジア経済研究所主任研究員の酒井啓子氏作。

中東の「革命政権」から始まったひとりの政治家が、どのようにしてアメリカを発見し、アメリカによって発見され、アメリカを利用しようとし、そしてアメリカと向き合うことで世界を統べようとしたか。本書では、イラクの現代史をその対米関係を軸にして見ていくことで、アメリカの作り出した中東世界での諸矛盾を浮き彫りにしていきたい。(序章より) 

その政治家とはサダム・フセイン、その人である。とても難しい問題ですから、コメントは差し控えますが、今もなお「武器査察」をめぐる攻防がアメリカのイラク攻撃の口実に使われそうな気配です。

アメリカの軍事攻撃が中途半端に終わってフセイン政権が存続したとしても、米軍はさっと撤退できる。だが周辺国は否応なくイラクと関係を持たざるを得ない。その相手がフセイン政権でない方が良いかもしれないが、フセイン政権が存続するのであれば、イラクに対する英米の攻撃に軽々と同調して、後に怨恨の対象にされてはたまらない−。それが周辺諸国の基本的認識である。だからこそ、周辺国であれ反体制派であれ、アメリカに求めることはただひとつ、アメリカが本当にイラクの政権を転覆する用意があるのか、その確証を示せ、ということに他ならない。(本文より)

折りしも、ブッシュ大統領が「悪の枢軸」と名指しで批判した北朝鮮との国交回復交渉が始まりました‥。



『クロスファイア』(宮部みゆき 光文社文庫)

宮部みゆき作の文庫版。

確かに、どうしようもない奴らは世の中にたくさんいるよ。けど、そういう連中だってちゃんと世渡りしているのよ。だもの、真面目に生きているあたしたちが、損ばっかりするわけないって。ちゃんとどっかで帳尻があうものよ。 



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